ikeの日記

PhD student in Political Science @ DCによる雑記。日々のあれこれ。留学のこと、研究のこと。

あるデータサイエンティストが解雇された話

George Floydさんの死がきっかけとなり、最近のアメリカでは人種問題に関連した議論や抗議活動が盛んに行われている。
そんな中、あるデータサイエンティストが解雇される事件が起きた。

事の経緯はこんな感じだ。
彼はデータコンサルティング会社に勤務するデータサイエンティストで、民主党系の選挙キャンペーンへのかかわりで知られる人物である。
彼は最近政治学のトップジャーナルに発表された論文の内容を紹介するツイートをした。
大雑把にまとめると、この論文はマイノリティによる抗議活動がメディアの報道を通じて政治家や有権者に正の影響を与えられる (抗議活動の目的達成につながる) こと、しかし抗議活動が暴徒化した場合には逆効果になりうることを、1960~70年代の公民権運動をケースに丁寧に実証したものである。
ところが彼のツイートは人種差別的であるという批判を浴びてしまい、結果として彼は勤務していた会社を解雇されてしまった。

このニュースを知り、いろいろと考えることがあった。大してまとまっていないが、以下に2つ思うことを書いておこうと思う。

まず、政治信条に反する事実/科学的知見に接したとき人はそれを受け入れるのが非常に難しい、ということをこの件は強く示してしまっている。
彼が紹介した論文は抗議活動の可能性や戦略の重要性を実証的に指摘するものであり、問題のツイートはその結果の一部を紹介しただけである。
しかし、抗議活動を支持する人の一部からはトーンポリーシングをしていると見られてしまったうえ、科学的知見を売りにしているはずの会社から解雇されることにまでなってしまった。
学術的研究にあたっては政治信条よりも科学的な厳密さや手続きが重要なことは当然だが、研究以外のシチュエーションでは、特に政治信条を強く持っているほど、後者を優先させることは困難になってしまう。

そして上記に関連するが、この件は政治に関する科学的コミュニケーションの難しさも示している。
彼が当該論文を違う形で紹介した場合 (別の言葉を使って紹介する、より詳細に紹介する、など) に異なる結果になったかはわからない。
ただ政治学を専攻している身として、特に政治学者以外にどのように研究結果を紹介するべきかについて真面目に考えないといけないと感じさせられた出来事だった。