ikeの日記

しがない研究者の雑記。

追記

先日のブログの主眼は後半部分のつもりだったが、どうやら前半部分のみがフィーチャーされて拡散されているようだ。
書いたものが筆者の意図と異なって理解されることは往々にしてあるので、そのこと自体は仕方のないことだと思う。
ただ、前半部分を取りあげる際に「ポリティカルコレクトネスの行きすぎの例」というような捉え方がされていることが多いようだが、個人的にはあまり正しくない解釈だと思う。
そこで、ここに前半部分について自分の考えることを少し書いておこうと思う。

まず、件のデータサイエンティストのツイートが問題化してしまったのは、「ポリティカルコレクトネス」の問題というよりも、アメリカにおける人種問題の根深さを反映していると捉えるべきだと思う。
ここで重要(だと私が考える)のは、Black Lives Matterを推進・支持する人でも運動の目標や戦略について必ずしも一致しているとは限らないこと、また件のデータサイエンティストが黒人ではなかった点だ。
前者についていうと、そもそもblack activist間で戦略や目標が違うのは今に始まったことではなく (例えばW.E.B. Du BoisとBooker T. Washingtonの論争)、昨今のBLM運動内部でも同様の対立が存在する。
そのため、「抗議活動に際して破壊は避けられない」という立場をとる人にとってはWasowの論文の結果は (政治信条に反するため) 受け入れにくいものだと思われる。
ただ今回問題がより大きくなったのは、おそらくWasowの論文の内容を紹介したのは白人だったからだろう。
あくまで反実仮想だが、同じツイートを黒人がした場合、論争にはなっただろうが、「人種差別主義者」であるという批判を受けることはなかったと思われる。
このような意味で、今回の出来事はアメリカの人種問題の難しいところが出てしまったものと捉えるべきだと考える。

また、事実関係が公表されていないのでわからないが、解雇に至った経緯も「政治的にincorrectな発言をしたから即解雇」というものではないと思われる。
彼が勤務していたデータコンサルティング会社はリベラル系の団体と取引のある会社なので、経営側としては取引先への影響力を考えたうえでの決定だったのだろう。
(「データコンサルティング」という企業の性質を考えるとその判断は賢明ではなかったと思うが)

しかし、「政治に関する科学的なコミュニケーションの難しさ」について書いたつもりのブログで、いきなりそれを痛感することになってしまった。
むむむ…。